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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9938号 判決 1969年7月16日

原告

石井政直

被告

三昌建設株式会社

ほか一名

主文

被告成田建設株式会社は原告に対し金四七五万四〇五〇円およびこれに対する昭和四二年九月二四日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告の被告成田建設株式会社に対するその余の請求および被告三昌建設株式会社に対する請求を棄却する。

訴訟費用は、原告と被告成田建設株式会社との間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告三昌建設株式会社との間においては全部原告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一、被告らは各自原告に対し金四七七万九四七六円およびこれに対する被告三昌建設株式会社(以下被告三昌と略称)は昭和四二年一一月七日以降、被告成田建設株式会社(以下被告成田と略称)は昭和四二年九月二四日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する被告成田の答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三請求の原因

一、(事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

なお、この際原告はその所有に属する被害車を損壊された。

(一)発生時 昭和四一年六月二九日午後二時二五分頃

(二)発生地 神奈川県津久井郡藤野町小淵一八九八番地先路上(甲州街道)

(三)加害車 普通貨物自動車(足四に一四〇六号)

運転者 訴外(弁論分離前の相被告)田村文治

(四)被害車 第一種原動機付二輪車(上野原二二九七号)

運転者 原告

被害者 原告

(五)態様 出合い頭の衝突。

(六)被害者原告は左大腿骨骨折、右上腕骨頸部粉砕骨折の傷害を受けた。

(七)また、その後遺症として左肩関節の運動障害があり、左腕は前方および側方より約七〇度挙上可能に過ぎない。

二、(責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(一)  被告三昌は、加害車を昭和四一年一月頃訴外日東トヨペット株式会社から所有権留保付で買い受け自己のために運行の用に供していたものであり、被告成田は電話線ケーブル埋設工事に際して加害車を右被告三昌より借り受けて自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)被告成田は訴外田村を使用し、同人が同被告の業務を執行中、次のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項による責任。

すなわち、田村は、無免許であり、本件事故現場である三差路は見透しが悪く 支道から国道に出る際には一時停止しなければならないにも拘らず、漫然と時速四〇粁の速度で中央線を超えて進行して本件事故を惹起した過失がある。

三、(損害)

(一)治療費等 合計五一万八八三六円

(1)上野原病院の入院費・手術代 一五万九一八五円

原告は本件事故により、昭和四一年六月二九日から同年八月一七日まで、および同年一〇月一七日まで上野原病院に入院し、右金額を支払つた。

(2)付添費 四万一二五〇円

原告が上野原病院に入院中、原告の実妹石井喜久子はその勤務する松島電機製作所を休業し、原告に付き添つて看護し、そのため二ケ月半欠勤したため、その間の石井喜久子の収入(日給六二〇円、一ケ月平均一万六五〇〇円、計四万一二五〇円)を付添費として請求する。

(3)前田病院の入院費・手術代・松葉杖購入費 二〇万一九三五円

原告は、更に東京の前田外科に昭和四一年一一月一六日から昭和四二年一月一五日まで入院し、治療費等および松葉杖代として右金額を支払つた。

(4)家政婦付添費 六万六四六六円

前田病院に入院中、家政婦の付添を必要とし、右金額を支払つた。

(5)腿内釘抜去費用 五万円

左大腿骨に挿入してある腿内釘抜去のため一〇日間の入院加療が必要で、五万円を要する。

(二)休業損害

原告は、右治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ二六万円の損害を蒙つた。

(休業期間) 六ケ月

(事故時の月日収)

有限会社諸角通信電設に勤務し、毎月約四万円の手取り収入があつた。

(三)逸失利益

原告は、前記後遺症により、次のとおり、将来得べかりし利益を喪失した。その額は三一六万三六八〇円と算定される。

(昭和四二年九月訴提起時) 二三才

(稼働可能年数) 四〇年

(労働能力低下の存すべき期間) 四〇年

(収益) 月額四万円

(労働能力喪失率) 三〇パーセント

(右喪失率による毎年の損失額) 一四万四〇〇〇円

(年五分の中間利息控除)ホフマン複式(年別)計算による。

(四)慰藉料

原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情および前記会社を欠勤のため自然退職となつたことに鑑み、金七〇万円が相当である。

(五)物損

原告の本件事故による損害は、原動機付二輪車の修理代三万六九六〇円である。

(六)損害の填補

原告は自動車損害賠償責任保険から既に三〇万円の支払いを受けた。

(七)弁護士費用

以上により、原告は四三一万九四七六円を被告らに対し請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、原告は手数料および成功報酬として四六万円を支払うことを約した。

四、(結論)

よつて、被告らに対し、原告は四七七万九四七六円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である被告三昌につき昭和四二年一一月七日以降、被告成田につき同年九月二四日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四被告成田の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項は認める。中(一)ないし(五)は認める。(六)は傷害の事実は認めるが、部位程度は不知。(七)は不知。

第二項中、(一)は、被告成田が被告三昌に電話線ケーブル埋設工事を請負わせていたことは認めるが、加害車の貸借関係および運行供用者であつたことは否認する。(二)は、被告成田が田村雇つていたことは否認、田村の過失は不知。

第三項は不知。

第五被告三昌は公示送達による送達を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

第六証拠関係〔略〕

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項(一)ないし(五)の事実は、被告成田との関係では、当事者間に争いがなく、被告三昌との関係では公文書にして真正に成立したものと推定される甲第一五号証の一、二によつてこれを認める。

〔証拠略〕によれば、原告は本件交通事故により、頭部顔面挫創、左大腿打撲傷、左大腿骨々折、左上腕骨々折、頸部粉砕骨折、両上肢および右膝部擦過傷の傷害を蒙り、事故当日の昭和四一年六月二九日から同年八月一七日までの間と同年九月一六日から同年一〇月一七日までの間、上野原町所在の上野原病院に入院して治療を受け、更に、同年一一月六日から昭和四二年一月一五日までの間東京都港区所在の前田外科病院に入院して治療を受けた後、約半年間自宅で療養し、左大腿骨々折整復のため挿入した腿内釘抜去のため再び前田病院に約一〇日間入院したこと、それにも拘らず、後遺症として、左手は四五度程度しか挙げられず、肘も充分には曲らず手先は肩に届かない状態であり、左足も膝が約九〇度しか曲らず、したがつて正座はできず、又長時間の歩行は困難な状態であることが認められる。

二、(責任原因)

(一)  被告三昌の責任

〔証拠略〕によれば、加害車の所有者は被告三昌ではなく被告三昌を経営している松尾廉三であることがうかがわれ、本件全証拠によるも加害車が被告三昌の所有であることは認められず、更に被告三昌が加害車を自己のために運行の用に供していたことは認められない。

したがつて、その余の点について判断するまでもなく、被告三昌に対する請求は理由がない。

(二)  被告成田の責任

〔証拠略〕によれば、被告成田は、本件事故当時、加害車を電話線地下ケーブル埋設工事のために使用して自己のために運行の用に供していたことが認められ、〔証拠略〕によれば、本件事故当時、田村は被告成田に雇われて同被告の業務に従事していたこと、本件事故現場の三差路は、田村の進路である支道から右折する場合右側の見透しが悪いため、田村は一時停止して左右の直進車の有無を確かめ、これに進路を譲り安全を確認したうえ進行すべき注意義務があるのに、一時停止はしたものの左右の安全を充分に確認することなく漫然と発進して右折した過失が認められる。

したがつて、被告成田は、原告の人損については自賠法三条により、物損については民法七一五条一項により、それぞれ賠償の責任がある。

三、(損害)

(一)治療費等 合計五一万三四一〇円

(1)  上野原病院の入院費・手術代

〔証拠略〕によれば、原告は上野原病院に前記のとおり入院し、その間の入院費・治療代として合計一五万九一八五円を支払つたことが認められる。

(2)  付添費

〔証拠略〕によれば、原告が上野原病院に二度に亘つて計二ケ月半入院した間、原告の妹石井喜久子が付き添つて看護したことが認められ、その間同人は勤務先の松島電機製作所からの収入が得られなかつたこと、その間の収入は一ケ月一万五五〇〇円であつたことが認められる。したがつて、付き添いのための収入減は三万八七五〇円であり、右金額を以て付添のための損害と認める。なお、原告は、月一万六五五〇円と主張するが、〔証拠略〕によれば、そのうち一〇〇〇円は交通費として支給されていたことが認められるので、右交通費は控除すべきものであるから、月収一万五五五〇円と認めるべきである。

(3)  前田病院の入院費・手術代・松葉杖購入費

〔証拠略〕によれば、前記のように前田外科病院に入院して、その費用として合計二〇万一九三五円を支払つたことが認められる。

(4)  家政婦付添費

〔証拠略〕によれば、原告は前田外科病院に入院中、付添を必要とし、家政婦を雇い、その費用は合計七万三五四〇円であることが認められる。

(5)  腿内釘抜去費用

〔証拠略〕によれば、原告は左大腿部の腿内釘抜去のため再び前田外科病院に入院し、その費用として少くとも四万円を要したことが認められる。

(二)  休業損害 二四万円

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当時、有限会社諸角通信電設に勤務し、ケーブル工事の作業に従事していたもので、月収は少くとも四万円はあつたことが認められ、原告が六ケ月以上に亘る治療のため少くとも六ケ月間は全く労働が不可能であつたことは前記認定の諸事実から明らかである。

よつて、その間の休業損害は二四万円である。

(三)  逸失利益 三一六万三六八〇円

〔証拠略〕によれば、原告は、記録上本件訴提起の日であること明白な昭和四二年九月一八日現在、二三歳であることが認められ、原告の前記後遺症は、労働基準法施行規則別表第二「身体障害等級表第一〇級九号および第一二級第七号」に該当し、全体として第九級に該当するものと認められ、その労働能力喪失率は少くとも原告主張の三〇パーセントはあるものと認められ、稼働可能年数は四〇年間はあるものと認めるのが相当である。したがつて、ホフマン式計算方法により年毎に年五分の中間利息を控除すると、逸失利益は、原告主張のとおり、三一六万三六八〇円と認められる。

(四)  慰藉料 七〇万円

原告の慰藉料は、前記諸事実に鑑み、金七〇万円を以て相当と認める。

(五)  物損 三万六九六〇円

〔証拠略〕によれば、本件事故により被害車が破損し、その修理代として三万六九六〇円を要したことが認められる。

(六)  損害の填補

原告が自動車損害賠償責任保険から三〇万円を受領していることは原告の自陳するところである。

(七)  弁護士費用

以上により、原告は被告成田に対し、(一)ないし(五)の合計四六五万四〇五〇円から(六)の三〇万円を控除した四三五万四〇五〇円を請求しうるものであるところ、〔証拠略〕によれば、同被告はその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件訴訟代理人にその取立を委任し、手数料および成功報酬として四六万円を支払うことを約したことが認められるが、本件訴訟の経緯に鑑み、同被告に賠償せしめるべき金額は四〇万円を以て相当と認める。

五、(結論)

よつて、被告成田は原告に対し、金四七五万四〇五〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四二年九月二四日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、原告の本訴請求は右の限度で理由があり、同被告に対するその余の請求および被告三昌に対する請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

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